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『犯罪目的での情報通信技術(ICTs)の利用に対抗するための国連条約を起草するアドホック委員会』におけるロシア連邦代表団副代表E.V.チェルヌヒン氏(ロシア外務省国際情報安全保障局長)の『インターナショナル・アフェアーズ』誌への寄稿記事(2023年10月19日)

『犯罪目的でのICTs利用に対抗するための将来の国連条約は、必ず成功する』

 

人類のバーチャル環境への客観的移行は、国家、社会、ビジネス間の相互作用のメカニズムの機能をめぐる数々の既存のステレオタイプの崩壊を伴う。これを受けて、国家の安全保障を確保するための新たな枠組みの調整と構築が必要になる。

 

同時に、世界の情報秩序の変容に関する変化も生じている。主要工業先進大国は情報分野における支配的地位を保持しようと努め、情報管理のモデルが政治的状況に応じて変更可能なものから法的拘束力を持つ規範に基づく多中心的なものへと移行するのに、ブレーキをかけようとしている。

 

この分野に関する普遍的な国際法条約欠如により、情報空間における犯罪は爆発的に増加し、国家の経済活動と数百万もの人々の生活に深刻な被害ぼしている。独立系国際専門のデータによれば、EU諸国では情報空間における犯罪の被害額だけでも毎年約5.5兆ユーロにも上るという。

 

ICTs犯罪は、割のいいビジネスになってしまった。一部の国々他国に対する違法行為を煽動し、既製のマルウェアをインターネットのパブリック・ドメインに置く動きる。グローバルなデジタル化のプロセスはセキュリティの確保によってその有効性とダイナミズムが左右されるが、のプロセス全体の今後が疑問視されている。

 

こうしたことを背景に、犯罪目的での情報通信技術(ICTs)の利用に対抗するための包括的国際条約を起草する国連アドホック委員会の活動は行なわれている。この交渉メカニズムは、ロシアのイニシアティブの下、共同提出46ヶ国支持87ヶ国を得国連総会決議74/247により設立された。その目的は、情報空間における犯罪と闘うために、史上初めて普遍的かつ法的拘束力のあるツールを世界社会が作り出すことにある。

 


逆説的ではあるが、現在の政治的現実において、ICTs犯罪が国境をまたがる性質を有していることから、本アドホック委員会の取り組みは大多数の国々にとって一層喫緊で必要とされるものになっている。委員会の会合には、160以上の国々と政治、治安機構、学術科学、経済界を代表する200を超える非政府組織から当該分野の専門家が出席した。

 

ロシアは、アドホック委員会の発足当初から現在に至るまで、この脅威との闘いにおける効果的で透明性のある国際協力の基礎となるような包括的条約を策定することを、一貫して提唱している。国連の後援の下に作成されるICTs犯罪に対抗するための条約は、例外なくすべての国家の利益に配慮し、国家主権の保護と締約国の平等、内政不干渉の原則に基づくものでなければならない。また広い範囲と犯罪化を規定しなければならない

 

米国、EU、およびその同盟諸国は、こうした国連の専門機関を創設すること全般、特に条約の起草については議論のあらゆる段階で強く反対を唱え、国連総会ではアドホック委員会の設置に反対票を投じた。西側の公式な主張の一つは、『世界はまだこのような条約への準備ができていない』というものであった。

 

国連条約というアイディア自体を否定する隠れた理由は、米国の提案により2001年に策定されたコンピュータ犯罪に関する欧州評議会条約にある。ブタペスト条約として知られるこの条約を利用して、米国は締約国の国家主権を弱体化させ、各国の情報空間をコントロールしている。将来の普遍的な国連条約は、ブタペスト条約と直接競合して、技術先進諸国が享受している『選ばれし者の立場』とその野心とに終止符を打つかもしれないのだ。

 

第74回国連総会の投票で発展途上国の『知恵と心』に破れた米国とその同盟諸国は、完全に方針を変えて「世界が必要としているのはこのような条約だ」と言い出した。迅速に体勢を立て直して、国連条約の起草プロセスで主導権を握ろうとしたのだ。こうして米国とその同盟諸国は、将来的な条約の直接の拒絶から、隠密の妨害工作と国際条約の内容を内部から無力化する戦術へと移行したのである

 

ロシアとは対照的に、米国は国連条約とブタペスト条約を最大限調和させることを提唱している。つまり『西側集団』の国々は、アドホック委員会のマンデートが謳う包括的なアプローチの代わりに、狭い範囲と犯罪化を唱えて煽り立て、ジェンダーと人権の問題を執拗に押し付けてくるのだ。こうして米国は、20年以上も前に起草され、今やすっかり時代遅れとなって発展途上国からも必要とされていない欧州評議会の地域条約に、新たな命を吹き込もうとしている。このような条約を世界は必要としているのだろうか。おそらくは、ノーであ

 

加えて、アドホック委員会の取り組みにはすべて、米国の管理下にある攻撃的なメディア背景が付きまとう。そこで唱えられるのは、「条約を利用してロシアと中国は全世界をコントロールしようとしている」とか「条約は、権威主義政権の思うツボにされる危険な前例を作り出す」といった主張である。これに対しては、では現在、インターネットとグローバル情報空間を支配しているのはいったい誰なの、という修辞的疑問が生じる

 

新たな国連条約を強く拒むもう一つの重要な理由は、米国が強要する『ルールに基づく秩序』のパラダイムに国連のプロセスが適合しないという事実である。ここでは、平等な国際協力は想定されていない。西側は国際刑事裁判所(ICC)についても『犯罪目的でのICTs利用に対抗するための国連条約』の代替と見做しており、今後のICTs犯罪の捜査ではこの国際刑事裁判所に主たる役割が割り当てられようとしている。


米国は、ICTs捜査を実施し帰属メカニズムを構築する広汎な権限を国際刑事裁判所に与え、この裁判所を使って評決を下し、責任を負わせようと計画している。だからこそ西側は、ICTsテロを含む『複雑な』行為を国連ではなく米国が支配する国際刑事裁判所で審理することを想定して、将来の国連条約では広汎な犯罪化を『括弧外に』除けようとしているのだ。痕跡の捜査や証拠の提出の責任も、米国の巨大IT企業が負うことになる。情報空間での犯罪容疑をかけられた国の市民に対しては、国家間の法的な相互協力メカニズムを迂回して『狩り』が行われる。このような形で、意思決定における国連の国際協力メカニズムのすり替えが行われるのである

 

以上から、国連後援の下で策定される将来の包括的条約を代替できるものはない、と結論付けられる。ロシア側としては、国家主権保護の原則に基づき今後も必要とする国々に技術支援を提供し、世界の情報空間におけるあらゆる新植民地主義的実践の現れを明らかにしいく。

 

アドホック委員会は、(2024年の)第78会国連総会に条約の最終テキストを提出する予定である。